周婉窈「図説 台湾の歴史」平凡社(原書:1997年10月、日本語版:2007年1月)

図説 台湾の歴史

図説 台湾の歴史


本書は1997年10月に台湾史研究所(聯經出版公司)から刊行された「台灣歷史圖說」の日本語版。
台湾では2007年1月現在、21刷、累計9万部ほど売れており、学術的な本としては台湾で最も多く売れ、
読まれた本ということになるそうである。

《台灣歷史圖說 內容簡介》
涵蓋範圍上起史前時期,下迄1945年二次大戰結束;在內容上跳脫一般以政權為主體的敘事架構,並以大量的圖片作為輔助說明,企圖為一般大眾對台灣史的理解開拓新視野。
本書原由中央研究院台灣史研究所籌備處出版,頗獲學術界肯定,並成為各級學校所歡迎的台灣史讀物及最佳輔助教材。本書經作者修訂以後,改由聯經出版公司發行,希望能為台灣史知識的普及創造新契機。

そもそも、台湾の歴史は日本の高校・大学ではほとんど教授されておらず、専任の研究者は皆無とのこと。
多くの日本人にとって台湾は、中国の一部みたいだけれどもちょっと違うようだと考えていたり、
手軽な観光地と考えていたり、美味しい料理が思い浮かんだり、経済成長やIT関連ビジネスで
日本とも大いにかかわりがある、といった程度の認識だろう。
 
もちろん日本人の中にも、日本が約50年に渡って台湾を統治していたことを知っている人も多いし、
中国との政治的関係により国連加盟ができない現状を知っている人もいるし、ITを中心とした経済発展
に伴う日本との関係性に詳く実際にビジネスで関わる人も多い。
 
しかしながらその台湾の正確な歴史や、台湾人の民族的自覚(ethnic identity)、国家への帰属意識
(national identity)をどこまで理解しているか、と問われれば、答えに窮してしまう方も多いの
ではないか。
 
日本人が、台湾の正確な歴史や民族的自覚、帰属意識をなかなか理解できないのも無理は無い。
理由は大きく分けて二つある。
 
まず第一に、日本ではこれらに関する研究が上述のとおり非常に乏しいし、これらの内容を網羅した
翻訳版の本も日本ではほとんど手に入らないからである。
 
私が台湾に赴任することが決まった2年半ほど前、「台湾」を深く理解したいと大型の本屋で
書籍を探したのだが、現代台湾を知るための60章(明石書店)や、酒井亨氏の本くらいしかなく、
総合的に「台湾の歴史とは」「台湾人とは」を記述している本は探せなかったことを覚えている。
 
また、日本は台湾を国家として認めていないから、当然、義務教育での台湾に関する教育もほとんど
行われないこととなる。
 
このような環境下で育った日本人は、特別に台湾と接する機会が無い限り、上記のような認識レベル
であることが当たり前なのである。
 
第二に、これは意外かもしれないが、台湾人のなかに「台湾の正確な歴史」を知らない人が多いのである。
これは信じがたいことかも知れないが事実である。
 
地政学的に台湾は「マライ・ポリネシア語系」に属す。
西暦1600年前後までは先住民族が台湾の人口の大部分を占めていた。
先住民族といっても、高山族(9族に分かれる)と平埔族(10族に分かれる)に分類され
統一国家など存在していなかった。
この先住民族がオランダに39年占領されたり、スペインに一時占領されたりする。
 
漢人が増えたのは1600年以降、オランダ人が台湾で農耕に従事する漢人を募集して以来。
特に清の鄭成功がオランダ人を駆逐して支配を開始した1662年からである。
 
その後、日清戦争で日本が勝利し台湾は日本占領下に置かれ植民地化する。
日本占領は50年ほどに及ぶが、第二次世界大戦後には中国から国民党が台湾に入ってくる・・・。
 
日本占領時、その歴史教育はもちろん「日本の歴史」が中心。
「台湾本土の歴史」は基本的に教育されない。
この期間が50年続けば、おのずと「台湾本土の歴史」を知る人の数は激減する。
 
また、終戦後国民党が持ち込んだのは徹底した国語(中国語)教育。
「我要説國語不説方言」という看板が学校の至るところにかけられるほど徹底された。
 
歴史に関しては強烈な「中国民族主義」。
国民党の目標は、「いずれ中国本土に戻り共産党を駆逐して中国全土を統一する」ことだから、
「台湾本土の歴史」のような郷土的なことに関する教育を行って台湾人に台湾人としての
アイデンティティが確立し、台湾独立の動きが出るのは、国民党としてはなんとしても
避けなければならないことだった。
ニ・ニ八事件、白色テロなどの恐怖もあり、内省人、先住民族は口を閉ざさざるを得なかった
ことも「台湾本土の歴史」が語られなかったことに大きく影響している。
 
結局、1990年代に入るまで、台湾の小・中学校で総合的な「台湾の歴史」を教えることは
なかったのである。
 
台湾人にとってはもちろん、日本人にとってもこの「台湾の歴史」を正確に理解することは
21世紀のアジアを考える上で必須だと思う。
 
台湾の歴史についてはあらためてこのブログでまとめて書きたいと思うが、この本を手に取り
一読いただければかなりのレベルで把握できると思うので、すべての台湾人、それに台湾に
かかわりを持つ(興味を持つ)日本人に是非読んでいただきたい本である。
 
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