大阪での2年4ヶ月について

 今、ロサンゼルス行きの便を待ちながら成田空港でこのコラムを書いています。3年3ヶ月の台湾赴任を終え、大阪に住居を移してからあっという間の2年4ヶ月。大阪での日々で得たことは到底書き尽くすことができませんが、できる限り書いてみようと思います。

 振り返れば今日まで多くの場所を転々としてきました。生まれ育った埼玉、高校があった栃木、大学時代の静岡、就職して山梨、転勤で東京、海外赴任で台湾、そして帰国して大阪。それぞれの土地で多くの美しい景色に出会い、美味しいものを食べ、様々なことを感じてきました。そして何より、本当に素晴らしい方々と出会い刺激を受け、様々な影響が自分に浸透していきました。

 さて、大阪の2年4ヶ月で特に印象に残っていることが3つあります。

 ひとつ目は日本の再発見。関西というロケーションを利用して、京都、奈良、和歌山、三重などの神社仏閣を多く訪れました。また、熊野古道や白川郷などを訪れ、日本の自然や伝統文化に触れることができました。日本人の体の中に脈々と流れる日本人独特の感性。仏教の求心性と神道の遠心性。厳しい冬や暑い夏、台風といった厳しい自然に向き合いながら独自の文化を構築してきた日本人のたくましさ。日本人の繊細さと諸行無常の思考。台湾から帰国してすぐということもあり、海外からの視点をもちながら考えることで、あらためて日本の素晴らしさを強く感じることができました。日本人でよかったとあらためて思います。

 ふたつ目は人の素晴らしさの再発見。大阪の方たちから学んだのは、自分の気持ちを素直に表現する大切さです。嫌なことは嫌、好きなことは好きとはっきり言うこと。今まで自分はこれとは正反対、自分の本性を隠し、多くの自分を使い分けてきました。具体的には親と話すときの自分、友人と話すときの自分、顧客と話すときの自分などそれぞれ異なる自分の姿を自分の中に有し、その都度使い分けることが人生をうまく生きる秘訣だと勝手に思っていました。ところがあらためて考えてみれば、そうすることで本当の自分はいったい何者なのかがぼやけるだけでなく、本当の自分をさらけ出さないことにより、出会った方たちが自分をぼんやりとしか理解できないということになっていたのです。これに気づいてからは、日常生活やブログなどを通じて、誰にでも思い切って自分が考えていることをさらけ出してしまおうと考えるようになりました。そして、そうすることによって気づいたときには自分が好きだと思える人たちが自分の近くに多くいてくれるようになりました。素直に思ったことを言い、言ってもらうということ。そしてそれを素直に受け入れるということ。人というのは人とかかわって生きていく動物なので、悲観的に考えずどんどん影響を相互に与え続けてよいのだと思います。そしてそれが人の素晴らしさのひとつだと思います。

 みっつ目は自分自身の再発見。大阪では空き時間を利用して、とにかくたくさんのものに出会おうとしてきました。その中でも多くの時間を費やしたのが本。今までの人生でもっとも多く本を読んだ時期となりました。数えたことがはありませんが、おそらく大阪で300冊程度の本を読んだはずです。本を読むことの効用は多くありますが、私が一番重要だと思っているのが「知れば知るほど自分がいかに物事を知らないかということを知れるということ」です。様々なジャンルの本を多く読めば知識は当然豊富になっていくのですが、一方で自分がいかに知らないかということも同時に知ることになります。この逆説的な学びが自分のアイデンティティを強化すると同時に、危機感を醸成・維持してくれるということに気づくことができました。

 最後に、大阪で出会ったすべての方々から得たものや、自分が経験した感動、感覚、思考、雰囲気、景色などあらゆるものにありがとうと言いたいと思います。本当に感謝しています。さらにもう少し踏み込んで考えてみると、感謝という言葉では多くが不足しているような気がします。そもそも、出会った方々やすべてのものから受けた影響は、今現在自分の一部となり自分を構成する重要な要素になっているのです。感謝どころか、自分はそのような他からの影響によってのみ、変わることができ成長することができ、何より自分を構成することができるのです。感謝という言葉では到底この素晴らしさを表現することなどできません。

 また同時に、自分は出会った様々な方々、様々な物事に影響を与えていることも強く認識しています。だから一瞬一瞬、今現在自分が発言できる、行動できるベストのことを行っていきたいと思うのです。
世界はあらゆるものの相互浸透で構成されています。宇宙全体から見れば自分の存在など取るに足りないものですが、それを悲観的にでもなく楽観的にでもなく自然に受け止めて、ロサンゼルスでも楽しんできたいと思います。末筆ながら、出会うことができたすべての皆様が素敵な日々をおくることができることを心からお祈りしております。
 
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