内田樹・三砂ちづる「身体知 カラダをちゃんと使うと幸せがやってくる」講談社α文庫(2006年)★★★☆☆


今年の重要なテーマのひとつはあきらかに「身体性」。
考えること、感じること、そして意識の源流に潜む身体が持つ能力。

それぞれを時に分けながら、そして時に一体化しながら自分というものを
考えていくことになる。

そんな中で出会ったこの本。
これから追求していくためのヒントがたくさん書いてあった。

  • (P.26)内田:戦後世代は、「直感的に身体が正しい選択肢を教えてくれる」という考え方を組織的に排除してしまったと思います。
  • (P.29)内田:武道で、本当に大切なのは、筋力とか骨の強さではなくて、むしろ感度なんです。身体の内側に起こっている出来事に対する感度。あるいは、接触した瞬間に相手の身体の内側で起きている出来事に対する感度。僕はそれを「身体感受性」と言っている。(中略)「かくれんぼ」や「ハンカチ落とし」みたいな遊びは、五感を超えた人の気配や「殺気」みたいなものを感じ取る訓練法でもあったと思う。
  • (P.30)内田:人間関係で傷つくというのは、たいていの場合、生命力を奪ってしまうようなタイプの人のそばにいるからです。(中略)善悪とはかかわりなく、ネガティブなオーラを出している人。本人は自分のことを思いやりのある善意の人だと思っているんだけれど、その人のそばにいるとこちらの生命力がゆっくりと損なわれていく。身体感受性が鈍い人はそれがわからない。だから「その人のそばからそっと逃げ出す」というオプションを思いつかない。
  • (P.31)三砂:私が何でこんなに出産、出産って言うようになったかというと、出産で身体知を一挙に取り戻すような経験をしている女性が少なくないことに気づいたからです。(中略)私は助産院で出産した女性の手記をたくさん読んだのですが、パターンがあります。「宇宙の塵になったような」とか、「時間的感覚がまったくないような」とか、「自分の身体がどこまでも広がっていくような」とか、「狭いところに入って出ていきたくない」とか。心理学で言う「ピーク・エクスペリエンス」みたいなものを感じる先に出産がある。それは一回感じてしまうと自分の身体知になって、すべての基本になっていくんですね。
  • (P.32)内田:身体と身体が触れ合った時に伝達される情報の量はぼくらが考えているよりはるかに多いはず。
  • (P.33)内田:宇宙感覚っていうのは、自分が生まれる前も、自分が死んだあとも含むような、時空を貫く流れがあって、自分はその「広大なるもの」の一つの構成要素であって、自分の前にもあとにも「何か」があって、自分もそれにつながっているという感覚のことだと思うんです。そういう感覚を持つことって、生きる意欲を維持するうえですごく大切だと思う。
  • (P.47)内田:セックスするまでもなく、男と女はいっしょにごはんを食べるだけで、いっしょにいられる人かどうかはわかるんです。(中略)やたら食が進んで、「おかわり」と言える時は、身体が「この人とは相性がいいよ」って教えてくれているんです。
  • (P.55)内田:輪郭のはっきりした「未来の体感」を志向的に有している人とそういうものをはっきり持っていない人とのあいだには、「時間を先まで進んでいる人間」と「リアルタイムで生きている人間」の差が出てしまう。
  • (P.66)内田:「いやな感じ」がするところに長くいると、人間はその環境に順応するために身体感受性やコミュニケーション能力を下げて対応するから、社会的能力が損なわれる。
  • (P.68)内田:「黙ってうつむいて、嵐が過ぎるのを待つ」という危機処理の仕方を子どもの時から組織的に刷り込んでいる。コミュニケーション不全は現代日本の風土病ですよ。
  • (P.81)内田:たいていの子どもたちって、マジョリティといっしょに行動することの有利さを過大評価しているんですよ。
  • (P.112)内田:身体レベルのメッセージは、言葉の意味をその時に理解できなくても、身体に入ってくる。何年か経って、そのメッセージを理解できる段階にまで成熟すると、はじめて言語化できる。
  • (P.213)内田:「私」を閉じたシステムとして閉鎖的で線形的な形として考えている限り、異質なものはひたすら不快なものであり、排除すべきものです。そういう自我中心的な発想を棄てない限り、学びもコミュニケーションも成立しない。当然エロス的な結びつきも成立しないし、結婚も成立しない。
  • (P.217)内田:共同体って、「自他の境界線がはっきりしないものがいっしょにいる」ということでしょ、要するに。いろいろな儀礼って、基本的にそのことを確認するためのものだと思うんですよ。

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