水村美苗「本格小説(下)」新潮社(2002年9月)★★★★☆

本格小説 下

本格小説 下


下巻は来年になってから読もうと思っていたのだけれども、どんどん引き込まれ読みだしたら止まらず、
結局一気に読み終えてしまった。
 
物語の全体的な雰囲気、登場人物それぞれが背負った人生、古い別荘の佇まい。
この言葉では言い表せない感覚。
 
カズオ・イシグロの「充たされざる者」を読んだときの不思議な感覚をふと思い出す。
そういえば、あの小説を読み終えたときも、なんだか過去に感じたことのないフワフワとした
言葉に言い表せない感覚に包まれたものだ。
 
これが、まさに小説の素晴らしさなのだとあらためて気づく。
 
小説は日常では決して感じられない素晴らしいクオリアをもたらしてくれるのである。 
小説を読むことは時間の無駄なのではないかと考えていたのだが、この本に出会うことによって
まったく逆で、自分にとって貴重な時間をもたらしてくれるものであることに気づいた。
 
水村さんが考えていることに近いと思うが、最近の小説の多くはあまりにも口語体になり過ぎてしまって
(さらには私には見えていない何か大切なものが欠落していて)その小説という手段によって生むことが
できる価値を最大化できていないのかもしれない。いや、まったく引き出せていないような気もする。
 
自分は小説などあまり読まないのに、生意気にもこんな考えが浮かんできた。
水村さんが「本格小説」というタイトルにしたその意味が、(自分勝手だが)理解できたような気がした。
 
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