梅田望夫「ウェブ時代をゆく」ちくま新書(2007年11月)★★★★★

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)


元旦に読むにふさわしい歴史的な一冊。
梅田さんが全身全霊を込めて執筆したその情熱が一行一行から伝わってくる傑作である。
重要な箇所がたくさんあり過ぎて線を引き出したら止まらない。

(P.99)
これからの時代の成功のカギは、リアルの地球と「もうひとつの地球」を自由に行き来しながら創造的に生きることだと思う。「好き」なことが見つかったら、リアルでできることだけでなく、ネット上の「知の高速道路」を疾走すればいい。「知の高速道路」は、けっして無味乾燥な静的情報の集積ではない。オープンソースの世界が好例だが、関心を同じくするネット上の「生身の人間」に自分から積極的に働きかければ返ってくる。そこが重要なところである。これから良き「志向性の共同体」がネット上に多様に生まれれば、いろいろな分野の高速道路が充実してくることになる。

基本的なことだが、「ネット上の情報は無味乾燥な静的情報の集積ではない」と言い切れる
ことが素晴らしい。自らの意志次第でそれを「高速道路」として利用できるということは
皆なんとなく気づいていたことではあるが、これほど簡潔かつ的確に説得力を持って
話ができる大人が何人いるだろうか。

(P.109)
新時代の情報リテラシーとは、「無限の情報」と「自らの有限の志向性」を直感的にマッピングする感覚で、つまり膨大な情報を遮断せず大切な情報を探し続ける能力である。

実世界において交通手段が発達し移動コストが低減されたので、その気になれば
世界のほとんどの場所に行くことが可能となったが、その無限に存在する「自らが知らない場所」を
すべて訪れることはできない。
人はその無限性に気づいたとき、それに絶望するのではなく自然と適応して自らの経験に
裏づけされた直感に基づき訪れる場所を判断する。
それが、無限の情報となると話は少し難しくなり、あるレベルのリテラシーが必要であると
梅田さんは言うのである。
これもある種の直感ということになるが、その直感は決して「運」のようなものではなく、
自らが歩んできたその道と努力に基づくセンスそのものであると言っても良いだろう。

(P.135)
ロールモデル思考法とは、ただ「誰かみたいになりたい」「こんな職業につきたい」という単純な願望から一歩進み、自分の志向性をより細かく定義していくプロセスである。
世に溢れる「人の生き方」や「時間の流れ方」に興味を持ち、それを自分の問題として考える。外界の膨大な情報の無限性を恐れず、自分の志向性と波長の合う信号を高速でサーチし続け、自分という有限性へマッピングする。波長の合う信号をキャッチできたら、「時間の使い方」の優先順位を変えてコミットして、行動する。身勝手な仮説でもいいからこれだと思うロールモデルにのめりこんでみる。行動することによって新しい情報が生まれ、新しい人々と結びつき、また新しいロールモデルを発見することになる。ロールモデルを発端に行動し、さまざまな試行錯誤をする中で、意欲や希望の核が生まれ、世界は広がっていくだろう。

梅田さんの考察は、ウェブという話のカテゴリーを軽々と越えていく。
梅田さんが紹介する「ロールモデル思考法」は、まさしく新時代の生き方の有用な方法論そのものであり
非常にためになった。

(P.146)
私たちは「知のゴールデンエイジ」とでも言うべき時代を生きている。「知的生活」を志向する人にとって素晴らしい環境が、日に日にウェブ上に準備されていく時代だ。

まさしくナナロク世代である私は、まさしく毎日この「知のゴールデンエイジ」の時代への
過渡期を生き、そのドラスティックな展開に興奮し、楽しんでいる。
80年代以降に生まれた世代とは異なり、ナナロク世代は高校時代まで「ウェブレス時代」を
生きてきているから、「知のゴールデンエイジ」時代の魅力をさらに大きく感じることが
できているのではないか。そう考えるとこのタイミングに生を受けたこと自体が
奇跡なのではないかと思えるくらい、ラッキーだと心から感じるのである。
 
この本は、ぜひすべての人、特に若い人に読んでもらいたい。
大げさかもしれないが、後世、この本は福澤諭吉の「学問のすすめ」と同等レベルの
評価をされるかもしれないと思う。
 
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